テキストサイズ

×××だけのプリンス

第3章 S&M ファイナルゲーム

「え…」


雅紀は1回だけそう発したまま
俯いて黙り込んだ。

そんな雅紀を置いて
俺はくるっと後ろを向く。


「じゃあね。」
「待って…!」


雅紀が慌てたように呼び止めるから
俺はゆっくりと雅紀の方を振り返った。

雅紀は顔を真っ赤にして
まだ俯いている。


「今日…翔ちゃん家行っていい?」


俺ん家…?

雅紀なりに、俺を厭らしく誘うつもりかな。
そう思った俺はポケットに両手を突っ込んで
優しく頷いた。


「わかった。一緒に帰る?」


その優しい顔のままわざわざ聞いてやったのに
雅紀は目を閉じて首を横に振る。


「一緒には帰らなくていいから、
ちょっと遅めに。寄り道して帰ってきて?
あと、翔ちゃん家の鍵…」


雅紀は俺の後ろに回って、鍵のある場所を
知ってたかのように鍵を取り出す。


「…じゃあね。また後で。」


そう言い残して、素早く
トイレを出ていってしまった。

雅紀の背中を見送り、
独り取り残されたトイレ。

雅紀、何するつもりなんだろう。

そんなことを考えながらゆっくり歩いて行く。

ふと顔を上げると、俺。
情けない顔をしてた。

自信ないような。怯えてるような。

鏡に写った俺に向かって叫んだ。


「お前は正しいっ!だからそのまま…

そのまま…」


突き進めばいいのかな。
計画もないまま、飛び込めばいいのかな。

そんなの、絶対に怪我する。

別に期限は決まってないんだから。冷静に。


鏡の中の俺と瞳が合った。

そいつの瞳は、不安。焦り。迷い。

色んな感情で溢れていた。


大丈夫。俺は大丈夫。

もう少し、もう少しで…


全て手に入るんだから。


そう自分に言い聞かせた俺は
蛇口をひねり水を出す。

手にすくい顔にバシャバシャとかける。

ふぅ、と1つ息を吐き。


「よしっ!」


顔をペチッと叩く。


俺はトイレを出て、
ニノに電話をかけた。


「ニノ…今から、会える?」
「え、今?…まぁ。」


声から若干、嫌だって本音が見える。
でも、そんなの構わない。

これからはずっと俺のことだけ、
考えるようになるんだから。いつかニノも。


「駐車場の横のトイレに来て。」
「…へっ!?え?なんでそんな…」


ニノの焦った声も聞こえたけど、
強引に電話を切った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ