
監禁地獄
第2章 カイモノ
「ああ、もう朝か」
鎮也はいつも通り自分の部屋で目覚めた。
黒を基調としたシンプルな部屋だ
「俺、いつの間に自分の部屋に…」
鎮也は昨夜の出来事を思い出せずにいた
部屋の真ん中に置かれたキングサイズのベッド
静かに起き上がり、周りを見回した
昨夜の記憶のカケラを探していたのだ
まず、自分が着ている衣服
いつもの白さを失い、酷く赤黒く汚れていた
締め切っていたはずのカーテン
隙間から刺す陽の光が照らす部屋の一部
扉からベッドに
迷いもなく汚された赤黒い点滅
「あの後」
鎮也の脳内では
昨夜の出来事がフラッシュバックしていた
喚く少年の声、反抗的な眼差し
唾を顔面に吐き捨てられ
少年の頭蓋骨が鈍く鳴った
右手がどろりとした液体で濡れる感覚
荒く浅い鎮也の呼吸、動脈が鳴り響く
治らない興奮、遠くなる感覚
これが昨夜の鎮也の記憶
断片的だが、脳裏に焼きつくような激しい記憶
「俺、ちゃんと後始末したっけ…」
地下の監禁部屋に確認しに行こうとした時だった
近くに転がる携帯電話が鳴る
端末には“隆一”の文字
「兄さん、どうしたの」
「やっと起きたか、鎮也」
「うん、俺今から地下室に…」
「地下室のアレなら俺が後始末しておいた」
「やっぱり後始末しないで寝てたんだ…」
「気にするな、それより鎮也は新しいものを探して来るといい。マスターには俺から連絡しておいたから、お前の体調が心配だ」
「うん、分かった。ありがとう兄さん。」
兄の隆一は鎮也が何よりも大切なのだ
昨夜の鎮也の荒れ方は本当に酷かった
鎮也は情緒不安定なことが度々あり
すぐに元に戻すには
新しい物を買うしかないのである
隆一も鎮也に負けず劣らず問題を抱えているが
弟である鎮也を守ることで自分を支え、
存在意義を見出し、
自分自身を守っているのだ
鎮也も兄を尊敬し自分の目標とすることで
内に広がる計り知れない闇の中に
ギリギリ渡れる程度の道筋を
作り出すことが出来ているのだ
この兄弟はこうやって
お互いに依存していないと
人間としてのカタチを保つ事が出来ないのである。
