テキストサイズ

theDecalogue

第1章 好奇心から始まった

寝室に唯一ある嵌め殺しの窓ガラスは夕暮れ色に染まり、次第に深い群青に変わっていく。
キッチンでケトルが笛を鳴らしている。
男はリビングのソファーから降りてシンクに立ち、寝室にいる少女に見られないように慣れた手つきでミルクティーを淹れ、棚の瓶から白い錠剤を取り出すと、細かく砕いて甘いミルクティーに溶かした。
カップを手に寝室に入ると、猫脚の椅子に丸く座る少女に
「ミルクティー淹れてやったぞ、飲むだろ?」
「…うん」
少女はカップを受け取り、男の視線を浴びながらゆっくりとミルクティーを飲み干していく。
少女が飲み終えて、テーブルに置いたカップに何も残っていないのを男が確認すると
「じゃあ、仕事に行ってくるよ、いい子で待ってろよ」
「うん…」
男の長い指先が少女の長い黒髪を撫でて、耳にかけると小さく唇を重ねた。
寝室から出ていく男の姿が見えなくなると、耳にかけられた髪を下ろして天蓋ベッドのベールを捲り、ベッドに転がると柔らかな毛布にくるまった。
鍵の掛かる鈍い金属音が静かな部屋に響いた。
ああ、やっと夜が始まる。
少しの間、あの人から開放される。
そう思いながら、薬が効いてきたのか少女は眠りに落ちていった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ