ガラスの靴がはけなくても
第5章 赤のしるし
――…乱れる呼吸を落ち着かせている間に、私の衣服を直してくれた部長。
余韻が冷めず火照りが引かない身体は力が入らない。
ぐったりとソファーに寄り掛かる私を見下ろして、
「そんなに良かった?」
悪戯にからかう。
反論する元気もなく、ただ顔を更に赤らめて睨むことしか出来ない。
熱くなってるのはいつでも私だけで、 部長はいつでも余裕。
今だって複雑な気持ちがぐるぐる頭の中で回ってて。
少し冷静になれば、恥ずかしさですぐにでも消え去りたいとすら思うくらいなのに。
「謝らないからな。本気で嫌がられたら俺だってやめてる。可愛い顔と声で誘う藤野が悪い」
そんな理不尽なことを言われて意味が分からないのに。
「早く……。早く俺のものになれよ」
甘い声でそう言うと、頭のてっぺんにキスを落とす部長に、苦しくなるくらいに胸がぎゅっと締め付けられる。