ガラスの靴がはけなくても
第7章 春の風
そんなことばかり考えていても前に進めないのは百も承知だ。
それを分かっていても、今のこの状態に甘えてしまっている。
相手に想って貰えて、自分も好きだと気付いて。
気持ちだけの今が居心地いいと思ってしまう。
どうして、私はこんなにもずるくて意気地なしなんだろう。
机に置かれた、ボトルから自分のグラスにどぼどぼと注ぐ。
それを香織さんの制止も耳に入れずに一気に飲み干した。
「ねえ、ワインってそんな飲み方するもんじゃないんですけど?」
「そんなの分かってますよ!!このままじゃいけないのも…分かってます…」
苦笑いをする香織さんにワイングラスを取り上げられ、代わりにお水を手に持たされた。
その後でテーブルに頬杖をついて、私を見つめる瞳はなんだかお姉さんって言うかお母さんって言うか…
お母さんなんて言ったら絶対怒られるけど。
とにかく、優しい。
「思ってるまま。そのまま伝えたらいいと思うんだけどな。不安も丸ごと。……それを受け止められないような小さな男に莉乃には見えるの?」