ガラスの靴がはけなくても
第1章 眠れぬ夜
結局のところ、私が泣き出したせいで道の説明が出来ず、部長も聞くタイミングを逃し、迷ってしまったと言うわけで。
しかも、さらに最悪なことに涙が止まったと思ったらお腹が鳴り出す始末。
もう笑うしかない状況に、完全に開き直った。
「部長。お腹空きました」
「調子のいいやつだな。顔がお化けみたいなやつと出歩けないから、ドライブスルーで勘弁しろよ」
鏡を取りだし、覗き込むとマスカラもなにもあったもんじゃない。
本当にお化けみたい。
だけど、ドライブスルーでと言ってくれたのも部長が気を利かせてくれてるって分かる。
やっぱり女の扱いには馴れてるんだろうな。
切れ長でちょっとあがった二重の目に、鼻は低すぎず高すぎず。唇までもが、形がよくって。
癖のない黒い髪はいつも後ろに流すようにセットされている。
皆が騒ぐだけのことはある。
「藤野。俺に見とれるのはいいけど、何にするのか決まったんだろうな?」
「…………。てりやきセットで」
……なんか勘にさわる気もしないでもないけどね。