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アイシカタ

第1章 Kiss




「…あざっす」


「擦り傷?転んだとか?」


「転んだのは合ってるけど、擦り傷じゃなくて切り傷」


「切ったの?体育でしょ?」


「ガラスの破片が落ちてたんだよ」


「ふーん、危ないねぇ…」


そういう割には棒読みな、感情のこもってない声だった。


が、そんなことはどうでもいい。


絆創膏が見つかったなら、大野と話している必要も無い。


さっさとグラウンドに戻って雅紀たちと話している方が数倍楽しい。


「じゃあ、俺はこれで…」


そういって立ち上がり、保健室を出た。


いや、出ようとした。


「えー、もうちょっと話そうよ」


しかしコイツのこの言葉によって、立ち止まってしまった。


「この時間俺、暇なんだって」


知るか。


「あと10分だけでいいからさ、ね?」


「ね?って…」


お前、教師だろうが。


「俺、生徒なのね?授業やんなきゃいけないの知ってるだろ?」


「どうせ優等生くんなんだから、ちょっとくらい遅くても怒られないって」


へらっとした柔らかい笑顔に、ここまでイライラしたのは初めてだ。


「そういう事じゃないだろ。教師のくせに何言ってんだよ」


「真面目だなぁ…ちょっとくらいサボろうとかないの?優等生くん」


「…さっきからその『優等生くん』っての、やめてくんない?」


「んー?ホントのことだから良くない?
成績優秀で運動できて、しかもイケメンだなんてさ。あ、生徒会もやってるっけ?」


完璧だよね〜、なんて呑気に笑ってる。


「ね、そういうわけだから、話そ?」


どういう訳だかは知らないが、こうも上目遣いに覗き込まれると…


不覚にも、可愛いと思ってしまう自分が情けない。


「…話すことなんてないっすよ」


そう言いつつもまた椅子に座ってしまった。


「んふふ、ありがとう」


そんな俺を見て、やけに嬉しそうに笑うんだ。



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