誰も見ないで
第8章 記憶
直してあげるから、と正樹君がお兄ちゃんを呼んで、また髪に触れる
僕が直せば良かった
一緒に笑うフリをして「直してあげる」って
そしたらお兄ちゃんに触れられたし、正樹君がお兄ちゃんに触れなくて良かったのに
ズル賢い考えに自分で自分が嫌になる
記憶を無くす前の僕はどんな人だったんだろう
こんなこと考えたりせずにちゃんと弟として過ごしてたんだろうか
長く色んなことを話して、日が沈んでから正樹君の言った
「帰らなきゃ」
という言葉に内心喜んでしまった自分にも嫌気がさした
けど、こんな風に自分の悪いところを思い知らされるのは今日はこれで終わりなんだって思うと安心感もある
「俺がもう少し話したいだけ」
そう言ってお兄ちゃんは正樹君を見送ると言った
僕はお兄ちゃんにそんなこと言われたことない
お兄ちゃんから話してくれることは少ない
って、ほらまた
いつかこんな感情が表情にも出てしまいそうで怖い
2人は幼馴染で大切な友達同士なのに、その仲を引き裂いてしまいたいって思うなんて最低だ
勝手に僕が好きなだけなのに
お兄ちゃんと正樹君が家を出て、1人になった部屋で落ち着かせるために深呼吸をしていると
「……あ……」