初恋
第3章 記憶のかけら
手渡してやると、顔全体から幸せオーラを放ちながら両手で缶を持った。
「わたしのために選んでくれたの?」
別に君に似合うコートを買って贈っているんじゃない。ココアだココア。
およそ130円とは思えない彼女の喜びように、俺のほうはたじろぐ。
今さらだけど、彼女は可愛かった。
美人というより可愛かった。病院で一番人気のナースよりずっと瑞々しい女らしさは、俺をドキリとさせた。
さらさら黒髪のおかっぱ頭。
くりりと大きな目には愛嬌が滲んでいた。
……でも俺は、彼女のことが苦手みたいだ。
なんでかって?決まってる。
服も金も記憶もないこの状況で、まるで危機感のないこのお気楽さが鼻につく。
どうせ今まで愛情ばかりを注がれて、辛い思いなんてひとつもせずに生きてきたんだろう。
それを、ひしひしと感じるからだ。