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裏小屋

第5章 逃げる

 桝本を先頭に、一人ずつ向こう側に渡る。桝本、高橋、馳谷……。

「あれ?」と馳谷。

 後ろの者は、前の者のリュックのヒモを掴むことになっていた。高橋は、リュックではないため、馳谷は高橋のバッグの端を掴んでいたのだが、自分のリュックには誰も掴んでいないことに気がついた。

「えっ!?」

 もしや、流されたのでは……と、マジで思った。

 石柿が馳谷のリュックのヒモを掴んでおらず、さらに、立ち止まったまま微動だにしない。

「えっ……石柿!?」

 立ち止まったままこちらを見ているだけ。

 
 その後ろには、勝山がいる。

「おい! 石柿! 早く進めよ!」

 勝山の声が聞こえる。

 石柿が動かなければ、勝山が進めない。それどころか、二人とも危ない。

「なにしてんねん!! 石柿、早く渡ってこい!」

 高橋が声を投げ掛けるが、まったく反応しない。

「なにしてんだイシガキィーー!! 沢蟹探してんじゃねえんだぞっ!!」と桝本も声を投げる。

「おい、どうなってんねん? あいつ、まったく動けへんやんけ」馳谷は表情を曇らせる。

 後ろにいる勝山が、危なかった。

 石柿のリュックを掴んでいるのではなく、しがみついていた。 
 

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