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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






パイプ椅子を両手に、並んで歩きながら小声でのやり取り。


お互いキャップを被っているせいかその表情は見えにくく。


…だってほんとに目が笑ってなかったんだもん。


絶対怒ってたよ、相葉くん。


チラと目を上げれば余裕の笑みで見下ろされ、今度は俺がぷいっと顔を背けて倉庫へと向かった。


"待ってくださいよ~"なんて明らかにふざけた声。


…もう知らない。
俺だってちゃんと見たかったんだから!


相葉くんを無視してずんずん歩いて行くと、先に倉庫へ椅子を片付けた松本先生が前から歩いてきて。


「あれ、どうしたんです?口めっちゃ尖ってますけど」


面白いものでも見つけたと言うような顔でこちらに近付いてくる。


「…尖ってませんいつもこんなです」

「いやいやそれはないでしょ」


"持ちますよ"と片手の椅子を奪われて隣に並ばれた。


こういう時の松本先生は言っちゃ悪いけどめんどくさい。


絶対相葉くん絡みだって分かっててわざとからかってくるんだもん。


それに二人で一脚ずつ椅子運ぶってどんな状況なの。


それなら相葉くんの…


後ろを振り向けば、ガチャガチャ音を出しながら十脚も担ぐよろけた姿。


ほら…やっぱ無理してたんじゃん。


「私はいいですから相葉先生の手伝ってあげてください」

「おっ、そんな見せつけないでくださいよ~」


ニヤニヤしながら言うトーンはまさにからかう時のそれで。


今日は櫻井くんが来てたからか終始ご機嫌だった松本先生。


…そのセリフそっくりそのまま返しますよ。


「あ。先生、今日の打ち上げそのまま行きます?」


急に真面目なトーンでそう言われ思わず立ち止まる。


「…えっと、一回帰ってからと思ってますけど」

「ですよね。俺らジャージだし」


そんな話をしている内にゆっくり歩いてきた相葉くんに追いつかれてしまい。


「ふふっ、手伝うか?」

「いいです…あと少しだし」


イヒヒと笑う松本先生が、はぁと息を吐く相葉くんを見て小さく"あ。"と発したあと。


「…相葉も打ち上げ来い!」

「えっ?」

「決まり!やっと今年からお役御免だぁ~」


そう言ってパイプ椅子を相葉くんに預けて去っていく後姿。


呆然と立ち尽くす俺と相葉くん。


なんなの…
もう松本先生ってば自由すぎ…!

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