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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






学校の最寄り駅近くのちょっとした繁華街。


活気のある大衆居酒屋ではあるけれど、いつも翔ちゃんと行くのとはまた違う小洒落た雰囲気の店で。


教員ほぼ全員が参加の体育祭の打ち上げ。


その中に教育実習生の俺が混じってていいんだろうか、なんて思っていたのは最初だけで。


「相葉先生!すごかったねー今日の活躍!」

「ほんとほんと!やっぱ若いっていいよなぁ~」


本来なら明らかに一番下っ端の俺がお酌をしに行かなきゃいけないはずなのに。


代わる代わるやってくる先生たちに永遠とビールを注がれては飲み、の繰り返し。


元々知っている先生ばかりだというのもあるけど、こんな俺なんかがちやほやされちゃっていいのかな。


…っていやそれより。


それよりなにより気になることが一つ。


大座敷の宴会スタイル、下座に居る俺とは遠く離れた場所に居るにのちゃんが。


にのちゃんが…


すっげー酔っぱらってるんだけど…!


次々にやってくる先生たちにお酌をしつつされつつも、遠くでほわほわ笑ってるにのちゃんが気になって気になってしょうがない。


つーかにのちゃんてお酒弱いんだ…


思えば二人で飲んだことなんてなかったかもしれない。


俺の成人祝いを家でしてくれた時も、確かにのちゃんはお酒を飲んでなかったような気がする。


だって始まってまだ一時間も経ってないのに。


すでに出来あがってるようなにのちゃんの様子にお酌どころじゃないんだってば。


私服に着替えてきたにのちゃんは、白Tシャツにネルシャツを羽織ってるだけのかなりラフな格好。


おまけに緩くなった口元とほんのりピンクに染まったほっぺた。


…ねぇちょっとそれ襟元広過ぎない?
そんな服持ってたっけ?


あ~もう萌え袖は今はいいって!
俺と居る時だけにしてよ!


つーかなんでそんな可愛い顔でずっと笑ってんの?
あれ背中だけど体育科の先生だよな。
くっそ…何話してるか気になるっ…!


にのちゃんの周りにはなぜか女の先生は居なくて、体育科の先生やおじさん先生ばかりが座ってる。


その光景はまるで、無防備にほわほわ笑ってる小動物を狙う狼のように映って仕方がない。

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