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風鈴の夏

第1章 俺と夏

夏になるたびに俺は食欲というものが失せる。
前までは単純に夏バテだろうと考えていた。
しかし、最近になり原因がストレスだと分かった。
夏になると幼い頃の嫌なことを思い出す。
15年前だったか、家族で夏祭りに行った帰りに俺は迷子になった。
泣いて泣いて夏祭りの人ゴミの中を歩き回った。
仲良く親子が歩いているのを見るたびに泣いた。
どうして迷子になったのだろう?
もう理由は忘れてしまった。 
でもこの迷子になった記憶は俺の中にトラウマとして植え付けられていたらしい。
夏休み、実家に帰った俺は高校生の頃の友人、千葉優馬に夏祭りに行かないかと誘われた。

「夏祭りに…か?」 
 
「うん。三橋と夏祭りに行ったことは無いなって。どう?」

俺はハッキリ言って行きたくなかったがせっかくの友人からの誘いだ。
断るのも何だか気がひけた。 
週末、俺は彼と一緒に夏祭りに行った。
15年前の話だ、さすが平気だろうと思ったけど無理だった。

「三橋?」

俺の異変に気付いた優馬が心配そうに俺の顔を覗きこむ。

「あー、ごめん。俺、夏祭りって苦手なんだ。」

「えっ?もしかして無理させた?」
 
「いや、優馬のせいじゃない。俺がトラウマに思っているだけだから…その…」

優馬は優しくニッコリ笑う。

「いいよ。また今度、一緒に出掛けようよ。夏祭りじゃない何か。」

「ああ。ごめんな、優馬。」

俺は優馬に謝り、その日は家に真っ直ぐ帰るつもりだった。
優馬が優しくて察しが良いやつで本当に助かった。
そんな帰り道、ある露店が目に止まった。
どうやら風鈴屋らしい。
俺はその中の花火が描かれた風鈴が気になった。

「お兄さん、買っていくかい?」

俺はその風鈴をせっかくだから買っていくことにした。
  

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