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風鈴が鳴る時

第3章 は

男が兄の後を継いで小山商事の社長に就任してから、7年が過ぎた。最初の3年間はまだ存命だった父親が相談役として助言などもしていたが、その父も既に亡くなり、兄は兄でずっと意識不明のまま。

しかし、小山商事は幾度ものピンチを不思議な巡り合わせや運に助けられ切り抜けてきた。ただピンチを切り抜けるだけでなく、そのたびに会社はどんどん大きくなっていき、それにつれて男もどんどん羽振りがよくなっていった。その頃になると、男は次第に兄の存在が鬱陶しくなっていった。小山商事の古参の社員の中には一定数、兄である小山タカシ派の人間が残っていた。

「今の“小山社長”はオレだっつーの!あんな植物人間を小山社長、小山社長って言いやがって!ただ寝てるだけで反応も何もないのに医療費だけはずっとかかるし、手続きとかいろいろ面倒だし、ったく。植物状態のまんま生き延びるぐらいなら、いっそサッサと死んでくれたほうがなんぼかマシだ!」

自分一人しかいない社長室で、病院からの治療費の請求書を眺めながら毒をはく。むろん、今の男にとって治療費など大した額ではないのだが。

ちりーん…
~~♪♪~~♪♪

その時、社長室の窓につるされた青銅の風鈴が鳴った。風鈴の音に一瞬遅れて、男のスマホも鳴った。

「はい」

電話は兄の入院先の病院からで「急変した」という知らせだった。電話を切ると、男は内線で部下を呼んだ。

「…兄貴が急変したらしい。ちょっと病院に行ってくる」
「いってらっしゃいませ」

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