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風鈴が鳴る時

第3章 は

病院に着くと、医師からいろいろと手を尽くしたがダメだった、と言われ、死亡の診断書を渡された。
兄にはかつて妻がいた、が、意識不明状態になってから3年で離婚が成立している。子どもは元々居ない。唯一の身内である男が、今後の様々な手続きをしなくてはならなかった。

「ちっ…」

さっさと死んでくれたほうが楽、そう思っていたが死んだら死んだでいろいろと手続きに翻弄されるのだ。

どこで情報を聞きつけるのか、いろんな葬儀屋からうちで葬式をあげてほしい、という勧誘まがいの電話が次々にかかってきた。

「社葬はしない。家族だけでひっそりとやるからほっておいてくれ」

兄のことが面倒でしかたなかった男は、片っ端から葬儀屋の申し出を断っていった。しかし、そのことが兄派の古参社員たちの反感を買った。会社の運営がうまく回らなくなり始めた。

ワンマン社長、実力もないのに勘違い社長、などと社員から白い眼で見られ、信頼も実績もどんどん落ちていった。気が付くと、全てを失って、会社も潰した。側近だった部下も離れ、家族もなく、完全にひとりになっていた。

男は、無気力になり、一日のほとんどを寝て過ごすようになった。そして、また夢を見た。以前見た、風鈴の化身と名乗る怪しげなじいさんが現れる夢だ。

「お前さんが兄貴に死んでほしいと言ったから、その願いをかなえてやったまでだ。…対価としてお前の会社をいただいたがな」

ちりんちりーんちりん…

【了】



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