テキストサイズ

赤い糸

第14章 大切な時間


「お帰りなさい。」

玄関を開けると璃子はリビングからヒョッコリ顔を出した。

「ただいま。」

「お疲れさまでした。」

璃子に鞄とジャケットを渡してネクタイを緩ませると

「お風呂沸いてますよ。」

璃子はハンガーにジャケットを掛けながらそう言った。

「ありがとな。」

半年前と変わらぬ光景にやたらに安堵する。

忙しくてやっぱり定時には上がれなかったけどフル回転で仕事を片付けて電車に飛び乗った。

もしかして昨日のことが嘘なんじゃないかって心のどこかで思いながら。

「あ、弁当旨かったよ。」

「お粗末様です。」

だから、部屋の電気を確認できたときは凄く嬉しかった。

…いるんだなって。待っててくれてるんだなって。

弁当箱を持って部屋を出ていこうとする璃子を後ろから抱きしめた。

「どうしたんですか?」

甘い香りが漂うおまえは柔らかくて俺の心を和ませる。

「まだお帰りのキスしてないだろ。」

すぐに赤く染まる頬に手を添えて後ろを向かせると 璃子はハニカミながら唇を尖らせた。

プックリとしている唇にそっと重ねる。

「チョコ食べてたのか?」

「あ…わかります?」

俺の部屋で今日一日過ごしたおまえは何を思い何をしていたんだろう。

見渡せばありとあらゆるところが片付けられていた。

ベッドだってなんだか太陽の香りがする。

…で、チョコか。

ずいぶんリラックスしていたんだなと変に安心した。

*

「うん、旨い。」

「良かったです。お口にあって。」

スーパーを何周廻ったかな。何を作ってあげたらいいんだろうって。

唐揚げも肉じゃがも餃子もハンバーグも一応作れる。

でも、京介さんの好物が思い出せなかった。

定食屋さんに行くとしょうが焼きとさばの味噌煮で悩み、カレーライスはこの間作ったばかり。

考えに考えた結果が

「璃子の味がする。」

キノコをたっぷり使った煮込みハンバーグ。

作った記憶はないけれど時間があるから手の込んだものを作ってあげたくて

「すげぇうまい。」

そう、カレーを食べてくれた日と同じこの顔が見たくて頑張ったんだ。

「おかわり持ってきましょうか?」

「あぁ。」

やってあげたいことが山のようにあるのに時間がない。

「璃子…」

「はい?」

「ありがとな。」

もっと…ずっと一緒にいたい。

ずっと、ずっと…

ストーリーメニュー

TOPTOPへ