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赤い糸

第14章 大切な時間


…遅ぇ。

待たされるとは思ったけど

あんなに小さな体のどこをどう洗えばこんなにも時間がかかるのか。

大浴場の入り口にある凉み所で新聞を広げるオレ。

そろそろ読み尽くしたと顔を上げると

「すみません…お待たせしました。」

…やべぇ

「遅いっつうの。」

小走りで現れた璃子は

「すみません…」

浴衣を着ているからか妙に色っぽかった。

無造作に纏められた髪、ほんのり色付いた桃色の肌、そして艶めいた唇

「行くぞ。」

俺と同じ柄の旅館の浴衣を羽織っているというのに璃子をまともに見ることも出来なかった。

「部屋に荷物置いたら少し散歩でもするか?」

「いいですね。」

この状態で部屋でまったりなんてしたらすぐにでも抱き潰してしまいそうでこんな提案をしてしまう。

まぁ、抱き潰してもいいんだけど夜はこれからだし。

大切な時間をいい形で過ごしたいって思う俺もいたりした。

*

「どうした?」

きっと誰に話しても信じてもらえないと思うけど

…私は京介さんの外見に惚れたわけではない。

でも、今は素直に思う。

…格好いい

浴衣の少しはだけた襟から覗く広い胸に紺地の帯が回ったしっかりとした腰回り

手を引かれ半歩後ろから歩む私の心は音を立てていた。

わかってるよ…きっとチンチクリンな私を見てどうしてあの人?なんて思われてる。

さっきから女の人とすれ違う度に京介さんと私はジロジロと見られてる。

「寒いか?」

「い、いいえ…」

京介さんはモテる。

だから 私がアメリカに発ったあと、近寄ってくる人がたくさんいると思う。

離れたらフラれちゃうかな。

考えないようにしていた不安要素が脳内に溢れてくる。

「やっぱ寒いんだろ。」

京介さんは大きな木の下で立ち止まり私の瞳を覗き込む。

「だ、大丈夫ですよ。」

不意に重なった視線に私の心臓はさらに大きな音を立て始める。

「どれどれ。」

…チュッ

お願い…こんなこと他の誰にもしないでね。

「うん、熱はないな。」

不意に音を立てて押し付けられた冷たい唇。

そうだね、私の体温を一番感じているのは唇だね。

「戻ろっか。」

人前でのキスに動揺した私に

「戻ったらもう一度キスしていい?」

イタズラに耳元でそう囁くあなた。

…ズルいなぁ

私は頷く変わりに大きな手を握りしめた。

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