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赤い糸

第15章 永遠

***

「寒っ!」

春はそこまで来ているというのに風はまだ冷たかった。

体を慣らしていない俺は背を丸めてベンチへと向かうと

「あれ?京介さん何でココにいるんですか?」

滅多に口を利かない後輩が機嫌の悪い俺に無駄な質問をしてきた。

「なに悪い?」

「いえ…今日はこれないって先週…」

「はぁ?」

「な、なんでもないです!」

俺はランニングシューズに履き替えて背を伸ばし軽く屈伸をして

「だったら聞くなボケ。」

グラントを1度出て外周を走りはじめた。

…ったく。

本当なら今日アイツが帰ってくるはずだった。

それなのに あのバカはお別れパーティーだかに誘われたからと急遽日程を変更して明日帰国することになった。

約3年…

年に1度先生の学会のお供で日本に帰っては来たけど会えたって2、3日。

俺も実家を継ぐことになって融通は利くようになったけどまだまだ新米営業マン。

甘えてばかりはいられなかったから アイツをどこかに連れてくなんて彼氏らしいことが出来なくて ただ 任期を終えて帰国してくれる日を待っていたんだ。

「…ハァ」

それにしても長かった。

あの日俺は涙に濡れる璃子に笑顔で手を振った。

そして…余韻もなにもなく車を走らせた。

それはアイツの前で格好つけられる限界がウルトラマン並みの短い時間しかなかったから。

記憶喪失を経てやっとの想いで自分のモノにしたのに自らの手で送り出した。

あのときはそんな選択をした自分が憎いけど きっと二人の将来には糧になると信じて。

その間もちろん浮気はしてない…と思う。

うん…たぶん。

健全な男子のわりには…頑張ったと思う。

なんて、璃子には絶対に言えないけど。

「あ~ムカつく!」

今日という日をどれだけ心待にしてたのか璃子が帰ってきたら身をもって解らせてやらなきゃな。

いつの間にか冷たい風が心地よくなってきた。

あと一周したらこのモヤモヤも汗と一緒に流れてくれるかな。

俺は繋がっている低い青空を見ながらあの笑顔を思い浮かべた。

*

計画はまずまずって感じ。

「璃子ちゃん!」

「しーっ!!直也さん!声が大きいです!」

あの先輩はどんな顔してこの場面に立ち会うんだろう。

「なんかドキドキする。」

青い空の下、可愛い彼女が大好きな人を待ってますよ。

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