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赤い糸

第4章 優しい心


なんとか思い止まってくれた璃子は食事を終えたばかりだというのにまたメニューを開いていた。

…人の気も知らないで

「美紀はデザートどれにする?」

記憶喪失だと認識していない璃子は私の気持ちなんかわかるはずはない。

「まだいい。」

あんなに必死に説得したというのに璃子はケロッとしてデザートを選びはじめた。

…記憶が戻ったら覚えてろよ。

「久しぶりにパフェでも食べちゃおうかなぁ。」

…その時はたっぷり奢ってもらうからな!

店員を呼び止めチョコレートパフェをオーダーした璃子は回りをキョロキョロ見渡すと

「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」

身を乗り出して小さな声で頬を染めた。

「なによ。」

スマホの画面には京介さんからのメッセージが映し出されてる。

…こんなこと言われちゃ仕方ないな。

同じ病院で働いてるとはいえなかなか二人の時間は作れない

…もう少しいい情報を流しますか。

「だからなに?!」

冷たい台詞を吐きながらも私も身を乗り出した。

すると璃子は思いもよらない質問を私に投げた。

「美紀はその…チューとかしたくなる?」

「チュー?!」

「ちょ!ちょっと声大きい!」

そりゃそうだよ。璃子の口からまさかのチューなんて言葉が飛び出したんだから。

でもね、璃子は話を止めることなくさらに顔を前に突きだして

「だから…あの…美紀は直也さんとどんなときにするのかなって…」

璃子は基本的にこういうお話が得意ではない。

学生の頃のハジメテの話も誰よりも目を丸くして顔を真っ赤にして聞いてたっけ。

「さすがに街中じゃしないけど二人で部屋にいると四六時中してる。んで、すぐエッチって流れになっちゃう。」

真剣に私の言葉に耳を傾けるから望んでいるその先まで話してみるけど

「普通はそうだよね…はぁ…」

いつもと全く違う璃子の対応に私の方が戸惑ってしまう。

「璃子はキスしたいの?」

コクりと頷く璃子を見てやっと意味がわかった。

…これって京介さんの話じゃないよね

そう…璃子の頭のなかでは循環器外科の川野先生が恋人なわけで…

「アンタ最近…川野先生とそういうことしてないの?」

記憶のない璃子の脳内を前提に聞かなきゃいけないもどかしさ

「…うん。」

付き合っている大人同士なら当たり前のことに璃子は頭を悩ませていた。

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