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赤い糸

第5章 ぬくもり


「「いただきます。」」

私たちのお膳にはお互いに譲り合ったサバの味噌煮としょうが焼きが仲良く並んでいた。

「すげぇ幸せ。」

…美味しそうに食べるな

男の人と食事するのは初めてではないけど この食べっぷりは圧巻だった。

「本当にお腹減ってたんですね。」

「あぁ、死ぬかと思った。」

その言葉通り、食べ始めてまだ間もないのにどんぶりの中のご飯はもう半分以上ない。

「あの…」

「ん?」

一息つきながらお味噌汁をすする彼に

「ご飯こんなに食べれないので食べてもらえませんか?」

大盛りを注文していた彼に大胆にも提案してみる。

だってその食べっぷりだったら大盛りでも絶対に足りないはず。

「いいの?」

それならば確実に食べきれそうもない私のご飯を譲った方がと考え

「どうぞ。お好きなだけお取りください。」

私は京介さんにどんぶりを差し出す。

「…あの時と一緒だな。」

「はぃ?」

「イヤ、なんでもない。それじゃお言葉に甘えて。」

どれだけ取るかなって思った。この勢いじゃどんぶりごと取られたっておかしくない。

「スゴっ…」

「え…取りすぎ?」

「いえ、丁度いい量だったのでスゴいなって。」

私の中で秘かに線引きしていたラインを彼は見事に掬い上げた。

まるで私がどれだけ食べれるのかを知っていたかのように。

「おまえの飯の方がうまい。」

「変わらないですよ。」

京介さんといると何故だか不思議な感覚になる。

懐かしさと心地よさと…苦しさ。

このしょうが焼きとサバの味噌煮もそうだ。

どこにでもあるお料理だけど、多分どこかで食べたことがある味。

…どこだっけな

頭の中の引き出しをフル回転で開けてみる。

家の味よりも濃い味で、病院の食堂よりも生姜が多め。

このサバの味噌煮は家の味よりさっぱりしていて…

ふと目を瞑り意識を集中すると

…パシャ!

「あ…」

「大丈夫か?」

瞼の裏に映し出される本日の一枚

これはグランド?

でも桜の木に緑が溢れてる。

…あ~ぁ、また迷惑かけちゃった

私はいつものように痛むコメカミを押しながら、ゆっくり目を開け私の隣に座り直してくれた京介さんを見上げる。

私の瞳に映つしだされた情景は

「ゴメン…調子に乗りすぎたな。」

今日京介さんと見た 緑溢れる季節が真逆の夕陽の情景だった。

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