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赤い糸

第8章 タイミング


窓から天を仰ぐように真っ青な空を見上げる。

「参った…」

そして項垂れ今度は真下に広がる公園に目をやる。

うちのオフィスがある4階からは桜の花も残り少なくなり新芽がだいぶ占拠し始めた桜の木が見える。

その舞い散る桜を眺めているとあの日の朝を思い出す。

『今日 優勝したらお花見しないか?』

『いいですね。』

大きな目をキラキラと輝かせて桜が満開のあの球場を歩こうって約束したよな。

その場所で俺は璃子に思いを告げるつもりでいたんだ。

違う男と付き合っていると思い込んでいる璃子から答えはすぐに聞けないと思ったけど

俺の気持ちだけはどうしても伝えておきたかった。

だって、璃子は俺のことなにも知らないかもしれないけど

俺は璃子のことを何でも覚えてる。

だからこれから先何があってもすべて受け止められると思ってた。

記憶をなくしてしまったアイツのすべてを…

それなのにあの日、璃子は何にも言わないで帰ってしまった。

「掛けるしかねぇか。」

ずっと押してはいけないって思ってた璃子の電話番号。

鳴らすのは反則なのはわかってる

でももう

ピッ…

おとなしく待ってなんかいられない。

…出ろ

呼び出し音が長く長く俺の耳に響く。

知らない番号だから出ないか

アイツ意外と用心深いもんな

祈るような気持ちで愛らしい声を待つ

…頼む

これ以上は迷惑だと諦めかけたその時

『…もしもし』

「…璃子?」

『…京介さん?』

おまえはホント…

「今電話大丈夫?」

『少しなら…』

名前を呼んだだけで俺だってわかってくれんだ。

*

「じゃあ遅くなって申し訳ないけど19時に○○駅で。」

『○○駅ですね。』

なんとか今日会える約束を交わした俺はもう一度スマホを握りしめ

「森田ー!飯いくぞ。」

「すいません!俺今日食ってる時間ないんですよ!」

もう一件大切な人に連絡をする。

「あ、もしもし…すいませんこんな時間に…」

この電話を終えたらアクセル全開で仕事を終わらせて

「じゃ、19時過ぎには行きますんで…ありがとうございます。」

初めて待ち合わせたあの駅に行くんだ。

でも…逢ってどうするんだ?

俺の気持ちを伝えたところでアメリカ行きがなくなるとは限らない。

それでも逢わなきゃいられない。

格好つけてなんていられないだ。

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