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赤い糸

第2章 愛する人


「くそっ!」

改札を出てどこをどう走ってたどり着いたんだろう。

説明しろと言われても答えられないほど走りまくった。

息を切らし階段を登りやっとたどり着いた病室。

「璃子っ!」

勢いよく扉を開けるとそこは

真っ白な壁紙に真っ白な床

真っ白なベッドに真っ白なカーテン

その無機質な白色が俺の胸をざわつかせた。

「すいません…ノックもしないで…ハァハァ…」

真っ白なシーツで眠る璃子に寄り添う璃子のお母さんは俺を見ると立ち上がり頭をゆっくりと下げた。

「ごめんなさいね、連絡が遅くなって。」

俺も汗を拭いながら頭を下げる。

「いえ…」

電話をもらったのはついさっき。

すげぇ心配してたんだ。

璃子とは学会から帰ってくる日の朝にLINEを交換してから連絡がとれなくなっていた。

一抹の不安を抱えながら過ごした数日。

仕事帰りの駅のホームで璃子の親友の美紀ちゃんからの電話

『璃子がうちの病院に入院してる。』

空港で事故に巻き込まれてこっちの病院に転院してきたと

「璃子…」

いつものように口をほんの少し開けて眠るコイツの顔は青白く

「無事でよかった…」

頭に巻かれた包帯が妙に痛々しく見えた。

「心配させんなよ。」

包帯に巻き込まれた髪を直してやろうと手を差しのべようとしたそのとき

「…すいません。」

美紀ちゃんが俺の腕をとった。

「…え。」

「京介さんちょっといいですか?」

美紀ちゃんは俺を病室から連れ出すと談話室へと案内する。

「アイツ頭打っただけ?他に怪我はないの?…あんなにグルグル包帯巻かれて…」

璃子に会えて緊張の糸が一気に解れたのか俺はやたら早口で話始めるんだけど

「あの…」

美紀ちゃんは俺のそんな姿を寂しそうに見ながら言葉を遮った。

「なんだよ。辛気臭いな。」

無駄に笑顔な俺に

「あの…まだ検査中なんですけど…」

ナース服を着ていつもよりしっかり見える美紀ちゃんはカルテを胸にギュッと抱えて小さく息を吐くと

「璃子は…京介さんのことわからないかもしれません。」

俺を闇に落とした。

美紀ちゃんは何を言い出してるんだろう

「京介さんの記憶が…ないみたいなんです。」

言葉の意味を正しく理解できない。

「何…言ってんの?」

まっすぐに俺を見据える美紀ちゃんは私情を挟まないナースの顔をしていた。

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