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貴女は私のお人形

第8章 だから世界の色が消えても、



「ストレートで良い?」

「はい。あ、お構いなく」

 もっとも、純が運んできたのはインスタントだ。あずなも知るペットボトルの清涼飲料水、紅茶とは名ばかりである。
 
 あずなの隣に腰を下ろした純の方が芳しい。

 花のような、それでいて甘すぎない匂いが、あずなをみだりがましく誘う。


 綺麗な手が、鼈甲色に満たした青い花柄のグラスを持ち上げた。

 間近で見ると、華奢な手首だ。トップスの袖から伸びた腕からしても、その素肌は化粧しているはずの頰と変わらない。粉雪も見て呆れよう、白くきめ細やかだ。
 胸の膨らみも『乙女の避暑』の面々の中では抜きん出ている。そのくせダメージ加工のカットソーを固定したビスチェのリボンはしっかり編み上げにしてあるのに、見るからにウエストが余っている。

  

「時に、湖畔さん」

 あずなはインスタントのアイスティーを受け取って、純とグラスを触れ合わせた。ガラスのキスする音がした。


「君とは話してみたいと思ってたんだ。二日目のオリエンテーリングで、一緒に歩いた時から」

「──……」

「湖畔さんも、そうでしょ?」


 服装と言い口調まで、詐欺にもほどがある。

 これだけ仮相とかけ離れた素顔を見せつけられても、あずなの中で、純の心象は変わらない。世間一般が、なかんずくオーソドックスなロリィタにいだく理想像。すなわち淑女のごとくイメージを引き去っても、純の存在そのものにつきまとう魅力が残るからか。

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