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オオカミは淫らな仔羊に欲情す

第6章 新しい日常

  午後*時。

  正面出入り口のドアにかけているプレートを
  ”CLOSE” から ”OPEN”に変えると、
  しばらくして、心地良いカウベルの音と共に
  常連の皆さんが来店する。
  
  まず、初めは ――、
  

「チーっす、おはよ、あやちゃん」

「おはようございます、辰夫さん」


  ランチタイムの一番忙しい時間をやり過ごして、
  ブレイク後の開店早々来てくれるこの
  ”辰夫さん”は、このカフェのある
  新宿2丁目界隈を取り仕切っている
  周防一家の組員さん。
  
  一応やっちゃんだけど、全然怖くない。
  
  
「おはよー、絢ちゃん。いつものお願いねー」

「あ、おはようございます、周防さん」


  次のお客様は、辰夫さんの上役の周防さん。
  
  一家の親分さんの跡継ぎで ”若頭”って肩書が
  あるって聞いたけど、毎日接している周防さんは
  そんな偉ぶった感じなんかちっともない、
  頼れるお義兄さんって感じの人。
           

「よっ。絢ちゃん。今日もいいお尻してるね~」


  って、入ってきた時、いつも私のお尻を触って
  行くのが呉服屋のご隠居・佐久間さん。
  
  
「このエロ爺、いい年してサカってんじゃねぇよ」


  って、佐久間さんのすぐ後ろから入って来たのが、
  酒屋の完ちゃん。
  偶然、同じ京都出身で、私がこのカフェで働き始め
  一番最初仲良くなったお客様。
  
  皆さん、年令も仕事もバラバラだけど、
  毎日決まった時間にご来店 ――、
  忙しない午後のひとときをこのカフェで
  過ごしていってくれる。
  
  
「―― あやちゃーん、そろそろ学校の時間よ」


  これは、私を雇ってくれたこのカフェのママ・
  珠姫さん。
  
  
「はーい」


  彼女は、派遣切りでかなり凹んでいた
  私に仕事をくれただけじゃなくて ――、
  
  
「気ぃ付けてねー」

「いってらっしゃーい」

「はーい、行ってきます」

  
  上京した時からほとんど諦めていた高校への復学を
  援助してくれた。        

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