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オオカミは淫らな仔羊に欲情す

第9章 季節はうつろう


  佐渡山は、さすがにその筋の男だけあって、
  絢音の拳がクリーンヒットしても、
  うめき声ひとつ上げないが、
  もともとごっついその顔は、あっという間に
  番町皿屋敷のお菊さんのような
  物凄い容貌に変えられていく。

  さすがにこのままじゃ、騒ぎがデカくなると
  危惧した竜二が絢音を止めに行く。


「絢音……絢っ! もうええ、止めろ」


  絢音は竜二の声も聞こえぬほど我を忘れ、
  ブチ切れている。


「絢音っ、もうええて。ええ加減にせい!」


  放っておけば本当に佐渡山を半殺しにでも
  してしまいそうな絢音を鎮める為、
  竜二は仕方なく一本背負いで絢音を投げ飛ばした。


「っっ、てててて……何すんのよっ?!」

「これで少しは頭冷えたやろ、このばかチン」


  そして竜二は呆然と佇む佐渡山と男Aの顔写真を
  写メで撮り、スマホでそのまま送信。


「お前らの処罰は大河内組の若頭と親分に任せる。
 ただし、2度目はねぇぞ。わかってんな」


  2人は声もなく、カクカクと頷いた。


「失せろ」


  佐渡山他その仲間達は、ほうほうの体で逃げ去り。

  竜二、絢音の傍らへしゃがんで大きくため息を
  つき。


「喧嘩する時ゃ相手選べよ」


  絢音、竜二の傷ついた腕へそっと手を触れたが、
  その手はプルプル震えている。


「!! お前……」

「……死なない?」


  いつもの様子と全く違う絢音に竜二は戸惑い、
  おまけにそんな絢音から発せられた
  問いかけがあまりに意外で。


「あ?」

「……だから、死なない?」

「こんなかすり傷じゃ死なんよ。けど、心配してくれて
 ありがとな」


  そう言って、竜二は絢音の震えている手を
  優しく包み込んだ。


「さ、帰ろか」

「……ん」  

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