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オオカミは淫らな仔羊に欲情す

第10章 その時、2人は……

  絢音、久住、めぐみ、反町、 蝶名林 ――

  いつものメンバー5人で連れ立って
  隣町の神社へ向かいながら
  めぐみが誰へともなく言った。


「あ~ぁ、やっぱ浴衣でキメてくればよかったぁ~」

「別にこれでもイイんじゃね?」


  めぐみを軽くあしらう反町の後ろを久住、蝶名林と
  並んで絢音は着いて歩く。

  たとえめぐみの突然の思いつきであったとしても、
  思いがけずこうして皆で秋祭りを愉しめる幸運を
  絢音は心密かに喜んでいた。



「あ、きっとあそこだよ」


  人だかりが出来ている一角は祭り囃子の
  軽快なリズムが流れ、
  賑やかな雰囲気を醸し出している。

  自然と心も浮き立ち、足早になる。


  この地域の町興し、という意味合いも込めて毎年
  この時期に催される寿・諏訪大社の初秋の大祭は
  絢音の亡き実父・桜羽隆三が義兄弟の盃を交わした
  兄貴分・大和田一家の組長が露天の運営や
  会場でもある神社周辺の民間警備を全て仕切って
  いるので、本堂に向かう境内の道の両側に並ぶ露天
  からは絢音の姿を目に止めた男達
  (テキ屋のあんちゃん達)が親し気に声をかけて
  くる。


  金魚すくい、ヨーヨー釣り、くじ引きに射的。

  焼きそば、たこ焼き、綿菓子、りんご飴 ――
  ソースせんべいにベビーカステラ。

  提灯に照らされた店は、まるでひっくり返した
  おもちゃ箱 のようだ。

  老若男女、子供から大人まで集い、
  皆童心に還ったよう束の間の時を愉しんでいる。


「あやちゃん、金魚すくいしようや」

「うん、いいね」


  反町に誘われて絢音は子供達に
  混ざって水槽の前へしゃがんだ。


「おや、誰か? と思うたら桜羽のお嬢やないけ。
 久っさしぶりやのぅ」


  この露天を受け持っている、
  派手な柄シャツにねじり鉢巻きの
  若い男からそう挨拶され、
  ”はて、誰だったっけ??”と、
  絢音は頭の中で記憶帳を
  猛スピードでめくる。

  そしてその男の傍らへ現れた、
  大柄で恰幅の良い着流し姿の
  良く似合う初老の紳士・
  大和田莞治の登場で――

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