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「薫！　オマエは、またそんなくだらないものを読むんじゃない！」

　その日、父さんは、いつもより早く帰宅した。勉強の合間にファッション誌を読んでいたところを見られてしまったのだ。スタイリストや美容師になりたい。だけどアタシは、一人息子だから父さんの医者の跡継ぎにならないといけない。だから夢は叶わない。

　それでも可愛いものを見ていると、見ているだけで良かった。それだけがほんのひと時の幸せ。それなのに、それさえも否定されてしまう。アタシの息苦しさは限界だった。

「いい加減にしろよ！　父さんは、何も分かっちゃいない。少しも好きなことしちゃいけないの？　自由はないの？　父さんの操り人形じゃないよ！」

「薫！　そんなこと言ってないじゃないか！　父さんは、もっと男らしい趣味をだな」

「アナタ、辞めて！」

　あぁ、まただ。母さん、アタシのせいでごめん。泣かないで。だけど、ごめん、もうアタシ、助けてあげられないや。

「父さん、ごめん。今日は、一人になりたい」

　家を飛び出した。アタシは初めて父さんに反抗したように思う。