BLUE MOON
第6章 星空
「はぁ~ふぅ~」
涼さんと一緒にとった夏休み。
「ふぅ~はぁ~」
渋滞に巻き込まれないように朝早く出発した私たちは高速を北へとひた走り
「ううっ…気持ち悪くなってきた」
お姉ちゃんと約束している温泉宿を目指した。
「モモがそんなに緊張してどうすんの?」
高性能なナビが目的地周辺とアナウンスすると私の緊張はピークに達する。
「普通は俺が緊張するもんでしょうに」
「…スミマセン」
だってお姉ちゃんに彼氏を紹介するなんて生まれてはじめてのこと。
「ほら、吸って~」
「すぅ~」
「吐いて~」
「はぁ~」
それも涼さんの計らいで仙台にほど近い温泉宿でお姉ちゃん夫婦も一緒に一泊しようだなんて
「どう?少しはよくなった?」
「わかりません…」
この状況下で緊張しない方がおかしい。
「じゃ、これなら少しは落ち着く?」
涼さんは私の右手に大きな手を重ねると
「…はぃ」
ギュッと握ってくれた。
そうだ。いつもこうやって寄り添ってくれる大きな手の持ち主を大好きなお姉ちゃんに紹介するんだ。
もう心配要らないよって…私は幸せだよって…安心してって…
「涼さん」
「ん?」
山の向こうには真っ蒼な空に夏特有の大きく張り出した入道雲。
その横にうっすらと月が見える。
「楽しい旅行にしましょうね」
「そうだね」
まるでママに見守られているようだった。
*
車の中ではあんなに緊張していたのに
「桃子!」
ロビーに入ってモモによく似た女性が声を掛けると
「お姉ちゃん!」
俺のことなんか放っぽり出して走り出した。
「よく来たね。何時に出たの?高速混んでた?どのぐらい時間かかった?こっちも暑いでしょう」
矢継ぎ早に質問攻めに合うモモはクスクスと笑いながら頷く。
そしてお姉さんは俺に気付くと今度はモモを肘で小突きながら紹介しろと催促する。
なんとも微笑ましい光景だ。
母親代わりをしてきたお姉さんとそれを敬う妹と
「はじめまして、桃子さんとお付き合いをさせていただいてます桜木涼です」
「こちらこそいつも桃子が大変お世話になってます。姉の杏子です。で、主人の…」
「青木智也です」
きっと暖かく見守ってくれていたであろう旦那さん。
俺も人の子だな。
挨拶したとたん心臓はバクバクと音を立て始めた。