BLUE MOON
第6章 星空
「いいお湯だねぇ」
部屋に入って荷物を片付けて ずっと運転してきてくれた涼さんにお茶を淹れたときだった。
お姉ちゃんは軽くノックをすると大浴場に行くよと颯爽と私を連れ去った。
山の中にあるこの温泉街では知られた宿。お湯も良ければ景色も最高。
お姉ちゃんは頭にタオルを乗せ高い空を眺めていた。
「極楽極楽…」
私もお姉ちゃんの横に座って同じように空を見上げる。
「いい人そうじゃない」
「うん…私には勿体ないぐらい」
たまに連絡を取り合っていたけどこうやって肩を並べるのは一年ぶり
「どんな人?」
「うん…職場では仕事も出来るし人望も厚くて理想の上司。私生活は優しくて頼りになって…いつも甘やかされてる。」
「おまけにイケメン御曹司さんだし?」
「まぁ…それが一番の悩みの種なんだけどね」
大自然に身を沈めたからかつい本音を漏らしてしまう。
「私子供っぽいところもいっぱいあるからこんな私でいいのかなぁって」
心のずっと奥にしまっておいた不安を声に出してしまった。
*
大自然に囲まれてたった一人の妹と裸で同じ空を見上げる。
「不安にならない方がおかしいんじゃない?」
「だよね?」
一年ぶりに会った桃子は言葉とは裏腹に幸せそうに頬を緩めていた。
「御曹司だろうがなかろうが不安になるのは当然。好きならどんな人でも不安になるものよ」
はじめてだった、桃子と異性の話をするのは
智也と付き合ってるときも結婚するときも桃子には相談しなかった。ううん…出来なかった。
話してしまったら心に蓋をしたままの桃子に負担をかけてしまいそうで
「お姉ちゃんもそうだった?」
「勿論よ。結婚した今だって帰りが遅いともしかして?なんて不安なときがあるぐらいだから」
「そうなの?」
「そうよ愛してるからね」
亡くなった両親の代わりをしなきゃって私こそ気負っていたのかもしれない。
「智也さんいい人だから心配ないでしょ?」
「いい人だから心配なのよ」
「そか…」
だからこんな日が来るなんて思っても見なくて
「桃子もたくさん愛してたくさん愛してもらいなさい」
「…うん」
胸が熱くなる。
「でも、あれだけの人なら色々と大変そう」
「そうなのぉ…聞いてよ姉ぇちゃん!」
大事な妹のに相応しい人なのか人生の先輩である姉がしっかりと見定めてやろう。