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オキナグサ

第5章 お付き合い


俺と同じように岩橋さんを目で追っていた朝陽さんも見ていたらしくて


「……そ、んな……」


と目を見開いている


でもその顔
知人がゲイでびっくりしたって顔じゃないよね

もっとショック受けたみたいな


「……」


面白く、ないな


「朝陽さん、本当にそろそろ行こう」
「……あぁ……悪かった。友人が迷惑をかけて」
「別に朝陽さんが謝ることじゃないよ」


朝陽さんの背中を軽く押して歩かせて、俺だけチラッと振り返ると


「!」


あの人
笑ってこっちに手を振ってる


なんなんだ


心臓が嫌な音を立てる
真っ黒く塗りつぶされたみたいに思考が曇っていって


だめだ

俺やっぱりだめだよ

こういう感情から逃げられない


着ていた服の胸元をぎゅ、と掴むと朝陽さんが俺を心配そうに見上げた


「聖くん? どこか体調が悪いのか?」
「……うん。ごめん朝陽さん。スーパー寄るのやめて、家行ってもいい?」
「大丈夫か? 買い物はいいから、タクシーで俺の家まで早く行こう」
「うん、ありがと」


背中を撫でる手が優しいけど

今の俺にはそれに御礼を言う余裕もなくて
ただ促されるままタクシーに乗り込んだ

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