甘美な吸血〜貴方の餌になりたい〜
第6章 昼と夜
「詩音莉ちゃん、あれから例の彼には会えたの?」
珈琲を一口飲んだ彼が、優しく隣のテーブルを拭いていた私に、微笑みながら声をかけてきた。
紫艶という名前の私の好きな人によく似た彼。
以前この店で話してから、よく珈琲を飲みに来ては、私と話をしてくれるようになった。
今はこの店の常連さんだ。
彼の名前は眞多さん。
この近くのbarのバーテンダーらしい。
「一度だけ逢えました。」
「で?聞けたの?彼の事?」
「名前だけしかわからなかったんです。下の名前だけなんですけど…。」
「ふーん。そうなんだ…。」
珈琲を口へ運び、遠くを見る眞多さんの表情は、さっきの優し気な表情とは真逆で、何だかすごく冷たい。
こういう表情もするんだ…。
でも、こういう表情だと紫艶に更に似てる…。