テキストサイズ

蜜蜂オヤジ。

第7章 お口の思い出。

俺は
桜さんに背中を洗ってもらいながら

亡くなった志帆にも同じことを
してもらっていたことを
ついついお喋りしてしまった…。


『すごい仲良しだったんですね』

『あ…いやいや…俺は甘えん坊で威張りん坊のダメな亭主だったよ… …志帆がいなくなって思うことはさ、俺って男は志帆の手のひらの上で転がされていただけかなぁって思う。…なんであの時に優しい言葉や気遣いのある態度ができなかったんだろうってね…』

『お父さんは…優しいじゃないですか! …あの洗い物…… …嬉しかった。』

桜さんは
そう言って
背中を洗う手をとめた

…ん?

手が止まったことが気になり
俺はふと振り返って桜さんに視線を送った

するとそこには
涙で可愛い瞳をウルウルと滲ませている
桜さんの表情が飛び込んできた!


俺は一瞬なにか
不穏当な発言をしたのかと
脳内をフル稼働させて
それまでの会話を反復させたが
思い当たる節はない…


そんなあわてふためく俺を見つめていた
桜はんは

あはっ!…そう微笑んだ


『私…感動しちゃったんです!』

『えっ?』

『私もいつか薫さんにそう思ってもらえるようになれるかどうか… …なんか… …自信無い…』

桜さんは
伏し目がちに
そう呟いた…

長いまつげが
伏し目がちな桜さんを
すごく美しく俺には見えた…

いや
とても愛しく見えた…


俺は
身体と心の心から
とてつもない愛しさのマグマが
吹き出そうになるのを感じていた…。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ