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ある深夜の来店客

第1章 ある深夜の来店客

 遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえる。
 すると彼は音も立てずに静かに立ち上がった。
 そしてレジの前まで来ると、受け皿に茶色の封筒を置いた。


「?」


 なんだこれ…。
 茶色の封筒に気を奪われていると、彼はすでに店を出ようとしていた。
 逃げられる!と思った俺は、彼の肩を掴もうとした。
 だが俺の手は空(くう)を切る。


「!?」


 確かに今、彼の肩を掴んだはずなのに……!


 その時、店の電話が鳴った。
 俺はなぜだか電話を優先してしまった。


『山内くん、なにかあった?』

「店長、アイツです、強盗犯です! 今、店にっ…!」

『強盗犯? 例の? 山内くん、彼は……』


 俺は耳を疑った。


『彼は昨日、自宅で自殺したそうだ』


 ……自殺?
 何を言ってるんだ、奴はたった今ここに…!


 振り返ると、彼の姿はすでになかった。
 代わりに警察官が店の中に入ってきた。
 俺はしばらく放心状態で動けなかった。



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