テキストサイズ

僕ら× 1st.

第1章 初期状態 --Ior,Shu

「…お前ら、俺を送る気ある?」

完全に俺のこと忘れて、兄弟喧嘩を楽しんでたろ?
静かに出掛けてもよかったんだけどな。

「ん?柊、まだいたのか?…春のインフルエンザが流行ってんだって。感染すんなよ?」

「そっち?柊兄、乱パはやめときなよ。身体に梅干が咲くぞ?」

"梅干が咲く"ってその表現、何とかならんのか?
食べてもいないのに俺の口腔内は酸っぱくなって、唾液がにじんできた。

「どっちも気をつけるよ…」

気遣ってくれているのか判断に苦しむアルと、心配顔の食えない伊織。
おかしなコンビのいるリビングをあとにする。

玄関脇で薄いジャケットを軽く引っかけ、外に出た。

夜桜も見納めだけど、まだまだ冷える。
霞む街灯が照らすなか、門からまっすぐ駅前に向けて歩きだす。

時折、駅から家路を急ぐ人々とすれ違う。
段差のたびにベルを鳴らす自転車に気をとられつつも、いつもどおりの穏やかな夜。

約束の時間にはまだまだ余裕あり。
角のコンビニで週刊誌を少し立ち読みしたあと、ホットコーヒーを一気に飲みこみ、待ちあわせの店に入る。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ