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僕ら× 1st.

第14章 P波 --Khs,Ior

***

"猫ふんじゃった"が流れる第2音楽室、ここのピアノを弾く彼女を窓から何度もチラ見したが、足を踏み入れたのは初めてだった。

第1と異なり壁に偉人肖像画はなく、楽器が置いてなければただの壁に小さな穴がいっぱい開いた教室だった。

ここで、伊織は彼女と2人きりの時を過ごしてるんだ。

窓は大きく、三方につけられているが、それほど見られている感がない。

「ここで演奏するのは、もうあと少しだな」

感慨深げに彼は言う。

そうか。
サマフェスも終え、中学生でいられるのもあと半年。

外部受験を希望していない俺たちは、今学期は部活に出てもいいとは言われているが、そうまでして下級生のタンコブ役をする必要もない。
それに、ヒマというわけでもない。
ただ、伊織たちには部の後輩はいない、が。

「あ、伊織は薬科試験受ける?」

薬学プレを選択している伊織にも受験資格はあるが、彼の目指すところは経済と経営だから…。

「資格は持ってても損はないからな。でも、11月だろ?俺、会計関係の試験があるんだ…だからやめとく…花野が受けるはず」

「そか。宮石って、そういえば進路聞いてなかったよ」

「…水族館で見てただろ?」

「飼育員か?トレーナー?」

薬とどう関係が?いや、なくもないけど。
それなら保育士も主婦も、命と関わる全人類が薬学を専攻しないとってレベルになってくる…。

「気になるのなら本人に聞けって」

わかってるくせに。
宮石と個人的な話をするのは、まだ気が引ける。
不動男のいる彼女に、もう惹かれたくはないんだ。

思い通りにならない悔しさ。
歯止めをかけなきゃいけない想い。

お前はまだ知らないんだろ?

「覚えてたらそのうち聞くよ…」

試験会場で宮石に会えるだろうか。
いや、何も期待してないけど。

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