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僕ら× 1st.

第27章 牛、歩く --Mkt,Ar

それを見て花野ちゃんが「ふふっ」と笑う。
玉ねぎを刻み終えた居松は、黙々とジャガイモをさばいて彼女に見せた。

「いつの間に?凄い!速くてキレイ!ありがとう。もうお昼近いから、ラップしてレンジに入れちゃおう」

ジャガイモ皿をレンジに入れた彼女は、ピッピッピッとリズミカルにボタンを押した。

「レンジでシチュー作るのか?」

「火の通りにくい野菜は、先にレンジで柔らかくしておくと茹で時間が短縮できるんです」

レンジを不思議に見つめる俺に、なぜか居松が説明する。
お前にゃ聞いてねぇよ…。

玉ねぎ炒めを居松に任せた彼女は、野菜をカットしながら尋ねてきた。

「ねぇ、ねぇ。"あなたにサラダ"って歌、知ってる?」

「おさかな天国サラダバージョン?」

"サラダ、サラダ、サラダー、サラダーを食べるとー"
さっきスーパーでインプットされた俺の脳内、今はこんな感じ。

「え?ちょっと違うかな?彼氏にサラダを作ってあげる歌なの!私ね、あれ聞くと、きゅーんってなるのー」

なぬ?
俺のライバルか?

「誰が歌ってんの?」

「カッコいい女の人のいるグループ!また聴いてみてね!」

「おう、カラオケで歌って」と返事の俺に対して、2人は知った顔で話しだす。

「最後のフレーズの落とし方がいいですよね。女のコが憧れるのわかります」とイチが言うと「あんな風に彼女に待っていてほしいよな。それと俺は"琥珀の月"が好きだな」と柊。

「あ、私も!あれは切なくてきゅーんですよね!」と彼女。

「リズムと歌詞のギャップが効いてますよねぇ」とイチ。

俺もも少しポップス聞こうかな…と、寂しく思った。
そんなやりとりの中で、刻まれた野菜がバットに並んでいく。

何だかんだ言って、料理できるじゃねぇか。

と、褒めようと思ったら、彼女が「あーっ!」と突然に叫ぶ。

「お米!お米!忘れてたっ!」

こういうそそっかしいとこ、俺にはツボだな。
可愛いったらありゃしない。

「みんな、ごめんね?早炊きでいっちゃうね?」

シャカシャカと米を研ぎながら彼女は焦る。

「そんな微妙な味の分かる連中じゃねぇから、気にすんなよ」

俺が言うと、残る2人は何か言いたげな目を俺に向けるも、反論してはこなかった。

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