後輩くんの挑戦状 ~僕に惚れてもらいます~
第9章 詫びのしるし
「……」
「……」
「……先輩はありますか」
「ないわ」
後ろからクラクションを鳴らされた。
しまった対向車がいなくなったのに油断していた。
私はすぐにアクセルを踏んで交差点を曲がる。
「心ここにあらずな様子ですけど、事故はやめてくださいね」
「喋らないで」
いったい誰のせいだと…!
曲がった先の信号が赤から青に変わり、車のスピードをあげながら、氷の冷たさで私は彼を突き放した。
葉川くんは言われたとおり再び口を閉じ、メガネのふちに軽く触れてから前髪を掻きあげた。
不満そうにも見えるが
口許は笑っているからそうも言い切れない。
これだけ拒絶してもなお余裕な姿勢を崩さないのだから怖い男…。
“ 本当に五つも年下なのかしら。年齢詐欺だったりしてね ”
また車内は静かになる。
ラジオから音楽にきりかえようか。
…いや、やめよう。
どのみちあと数分で、目的地である施主の家に到着だ──。