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風鈴が鳴らない時

第2章 匂えど


僕は言われた通り30歩進んで右に曲がり、試しに毎回右に曲がってみた。

最後に10歩進んで目を閉じて…ココってスタートから15歩進んで右に曲がって、また15歩進んだ所なんじゃないのか?

目を閉じたままブツブツ言っていたら、おじいちゃんに後ろから声をかけられた。

「目を開けて、何が見える?」

僕が言われた通り目を開けると、ソコには向かいの岸が見えないくらい大きな湖が広がっていた。しかも足の爪先が少し水に浸かるくらいギリギリの所に立っていた。

「わぁ!…いてっ!」
僕は驚いてその場から後ろに立ち退こうとしたけど…遮る何かに押される様に前に倒れ込み、その場に突っ伏して両手を地面に着いた。

「何が見える?」
もう一度聞かれた僕の目の前には、湖に映る僕が居て…他には何も見えなくて…ただ見つめ会っているだけだった。
「僕の顔が見え…ます」

ちょんまげじゃなくてポニーテールの様だけど、結び目が少し長めに結ってある!わぉ!!ホッペに十字傷ホスィ~でごさるぅ。

僕は、お侍さんコスに上機嫌になった。

「快晴では水中が見え、曇天では暗くて見えず…蒼天のみ己が見ゆる。ここにたどり着きもした。…やはり資格は有るのだが…ソコに映るお前は何をしている?」

おじいちゃんは、なにやら難しい事を言っているけど…何の資格だろう?もしかして刺客!?お侍さんだけに!?

「うぅ~ん…僕は、僕を見てます…?」
おじいちゃんは何が知りたいんだろう?きっとこんな答えを待ってるんじゃない…って事はなんとなくわかるんだけど…。

しばらくの沈黙の後…。
「お前にわしは不要よのぉ…次は、曲がった事の無いような角を3度曲がり行き着くがいい」

それだけ言うと、おじいちゃんは顔のあった高さ迄小さくなってソコから地面に落下して鈍い音を立てた。…様に思えたけど、それは僕の目覚まし時計の音だった。

リリリッリリリッ───


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