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じゃん・けん・ぽん!!

第4章 おにぎり大戦

 そして、引いていた手を前へ出す。健人も、それに合わせて手を出した。
 健人は、負けた。
 健人の手がグーなのに対し、裕子の手はパーだった。
「も、もう一回」
 健人は思わず再戦を申し入れていた。
「いいよ」
 裕子は快諾する。そしてすぐに、また拳を作ってそれを引きながら、
「じゃん、けん――」
 と裕子が言う。表情は真剣そのものだ。二重の目が光を放ち、薄い唇が引き締まる。
「ぽん!」
 ふたりは息を合わせて手を出し合った。健人は――。
 再び負けた。
 健人がパーなのに対して、裕子はチョキだった。
 裕子はおにぎりを自分の顔の横へ持っていき、ふふんと得意げに笑う。
「二回連続で勝っちゃった」
 口角の上がった唇の間から、綺麗に並んだ白い歯がちらりと覗く。二重の目には喜色が浮かんでいる。
「じゃあね」
 と裕子は言って、くるりと健人に背中を向けた。狐色の髪が風をはらんでふわりと舞う。そしてそのまま振り返ることなく帳場へ行って、店主の婆さんに支払いを済ませ、勝ち取ったおにぎりを持って店を出ていった。
 腹が減ったな、と健人はあらためて思う。それにしても、いくらじゃんけんが運の要素の強い遊びだからといって、二回も連続で負けるとは思わなかった。
 ――不運な偶然もあるものだな。
 そう思う。こんな時に偶然が働くなんて――とも思う。
 偶然――。
 ――偶然なのか。
 ふと、健人は疑念を抱いた。

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