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じゃん・けん・ぽん!!

第5章 かじか

【かじか】

 程よい薄暗さが好きだ。
 昼間だというのに電灯が点り、狭い店内を照らしている。かと言って憂鬱な雰囲気ではない。憂鬱というよりは、古風で落ち着いた雰囲気だと健人は思う。
 かじか――という名のこの喫茶店は、物憂げな様子の女が取り仕切っている。女はカウンターの内側で皿を洗ったり湯を沸かしたりなどしてせっせと働いていて、ほとんど客の方を向かない。客と言っても、健人と晃仁の他には、ふたりばかりの客がいるだけだが。
 ほとんど背中しか見せない女店主に、それでも健人は見入ってしまう。長い髪の間から時折のぞく白い項が、妙に艶かしいからだ。
「それはコールドリーディングさ」
 と友人の晃仁が言った。
 小柄ながらも謎の風格を持つ級友は、健人の向かいの席で烏龍茶を飲んでいる。暑い外を歩いてきたせいで肌にも髪にも汗が滲んでいるが、空調の効いた店内に入ってからはずいぶんと涼しく感じる。むしろ寒いほどだ。
「なんだよ、そのコールドリーディングってのは」
 健人はすぐさま質問した。質問してから、すぐに紅茶を口にした。冷たい液体が、喉を通って胃に落ちる。
「まあ、言ってみれば推理的話法――とでも言うかな」
 晃仁は烏龍茶の入った器を軽く振る。氷がからからと音をたてる。
「わかるように説明してくれないか」
「健人はさ、グーを出して負けたんだろ」
「そうだよ」
 昨日、甘星堂で生徒会長の池田祐子とじゃんけんをやって、二連敗したことを話しているところだ。なぜ負けたのだろうと健人が訊くと、その答えとして、それはコールドリーディングだと晃仁は答えたのだ。
 そうだろう――と晃仁は腕を組む。
「それに君は、じゃんけんをする前に、その会長さんの見た目にずいぶんと惚れていたね」
「惚れていたというか――」
 まあ見とれてはいたよ――と健人は答えた。そして、見とれるあまり体が強ばっていたこともついでに話した。そうすると晃仁は、人差し指を健人に突きつけ、それだよと言った。
「何が、どれだ」
「健人が緊張していたことを、きっと会長さんは見抜いていたんだ」

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