テキストサイズ

じゃん・けん・ぽん!!

第7章 発議

 言葉を飲むと、何も言えなくなった。仕方なく、下唇を密かに噛む。
 学がにやりと笑った――気がした。わずかな表情の変化だからはっきりとは分からなかったが、裕子には笑ったように見えた。
「会計はどうなの」
 裕子は考えた末に尋ねた。
「下駄箱の交換くらいの予算なら出せると思います」
 会計委員は、すかさずそう答えた。予算で無理があるならそれを口実に突っぱねることもできると思ったのだが、その思惑ははずれた。
 却下するためには、何か口実がなくてはいけない。
 何か口実は――と裕子が思案していると、
「会長、決議してください」
 と評議委員が言った。
「いや――」
 反論の言葉が見つからない。裕子が口を戦慄かせていると、評議委員はほかの役員たちに言った。
「反対の人はいますか」
 誰も手をあげなかった。
「では賛成の人は」
 重ねて、評議委員が質問をする。その質問に――。
 委員の全員が手をあげた。
 学も手をあげていた。口許に、僅かな笑みを浮かべながら。
「く」
 思わず、奥歯を噛み締める。
「会長」
 評議委員が、いや――すべての委員の視線が、槍のように裕子の体に刺さっていた。
「決議を」
 評議委員が言った。
 裕子は、胸を抑えて息を整えた。そして、
「一週間のうちに、学校側に要望を提出しておきます」
 そう言った。
 言ってしまった。
 生徒会という公式な場で、生徒会長という公式な立場で発言したからには、もう実行に移すしかない。しかし、そうできない理由が、やはり個人としての裕子の胸の中で騒いだ。
 ――お父さん。
 裕子の胸の中に、どろりとした感情が沸いた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ