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じゃん・けん・ぽん!!

第14章 第1回戦

【決戦の時】

 ――どうして屋台が出てるんだよ。
 辻村健人は、多くの生徒で賑わうグラウンドを眺めながら、呆れていた。
 じりじりという音が聞こえてきそうな容赦のない日差しのもと、蟻が群れいているかのように、大勢の生徒が行き来している。
 グラウンドの真ん中には演説台が用意され、それを取り巻くかのように、生徒は円を作っている。あの演説台は、朝礼などで校長が夏休みの心得などを語るためにのぼるものだ。このためだけに、それをグラウンドの真ん中まで移動させたらしい。
 夏休みを間近に控えた平日の、昼休みだ。決して文化祭ではない。だというのに――。
 たった一軒とはいえ屋台が出ているのはどう考えてもおかしい。
 決戦の時だ。
 下駄箱交換派と空調設置派の対立に決着をつけるための――じゃんけん大会だ。
 そう、じゃんけんなのだ。
 単なるじゃんけん大会なのである。それなのに屋台が出るほどの騒ぎが起こるなど、もう正気の沙汰とは思えない。
 朝に池田裕子の声で全校放送があった。

「空調を設置するのか、下駄箱を交換するのか、議論に決着がつかないのでじゃんけんで決めることにします。意義のある人は、昼休みまでに、私、生徒会長の池田裕子のもとへ来てください」

 無茶苦茶だと思った。さすがにそれはないだろうと思った。きっと誰かが文句をつけるだろうと思っていた。が――。
 蓋を開けてみればこの騒ぎだ。結局誰も意義を申し立てなかったのだろう。しかも、ほとんど単なる勢いで、健人が下駄箱交換派の代表選手に選ばれてしまった。一応、言い出しっぺだから――という理由はついていたが、こじつけだろう。健人としては、てっきり馬淵学が選ばれると思っていた。三年生だし、威厳もあるから担がれるだろうと思っていたのだ。そして実際に、学を担ぐ意見はあったようなのだが、なぜだか学はそれを辞退したのだった。それで健人が代表になってしまったのだ。

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