あたしの好きな人
第8章 新しい生命
「おめでとうございます、8週、妊娠3カ月といったところですか、ピルを使用していたということですが、最後の生理からして、そのくらいだと思いますね」
事務的なお医者様に説明されて、診察台に横になり、お腹に冷たいジェルのようなのをぬられて、
パソコン画面の真っ暗な中に、小さな白いモノが揺れ動くてるのが見えた。
それが赤ちゃんだと説明されて、現在の大きさまで教えてくれた。
予定日だとか、それまでのしなきゃいけない検査の話、
当たり前のように出産前提で話をされて、少しついていけずに、ぼんやりしたまま、
診察室を出た。
岳人は待合室で他の医者らしい、白衣を着た人と一緒にいた。
その人がここの理事長さんだと紹介された。
渋い大人の格好いい男の人だ。
「……周防 秀樹だ、こいつの父親とは友人でね、岳人のことも子供の頃から知っているんだ」
「青井 咲良です、この度はわざわざ看て貰ったようで、ありがとうございます」
あたしの顔をじっと見つめる、周防さんが、ハッとしたように首を振る。
「……咲良さん、変なことも聞くようだが、君のお母さんの名前は?」
「母を知ってるんですか?青井 百恵です」
「……そうか!百恵……、いや、悪いね、あまりにも似ているから、びっくりしたよ、いやあ、懐かしい」
「……知り合いだったの?」
岳人が胡散臭そうな顔して、周防さんを睨んでいる。
「ああ、同じ大学だったんだよ、綺麗な人でね、マドンナ的な存在だった、今も看護師として働いてるのかい?」
そんな最近のことも、知っているんだと思って、大きく頷いた。
「はい、相変わらず、交代勤務で不規則ですけど」
「そうか、元気でやってるんだろうね?……ああ、悪いね、二人の邪魔をして……、咲良さん、色々あるだろうけど、何かあったら、ぜひ俺を訪ねて来ておいで、協力できるからね?」
名刺を渡されて、自分の名刺も渡して頷いた。
白衣を翻して、エレベーターに向かう周防さんを見て、素敵なおじさまだなとため息をついた。
待合室で岳人の隣に座り、口を開く。
「……あのね、岳人あたし……」
暫く沈黙が続き、思い切って口を開く。
「うん、咲良が決めたことなら、俺は協力する」
岳人はあたしの心がもう決まっているって、分かっているのか、
真面目な顔で頷いた。