あたしの好きな人
第8章 新しい生命
体調の悪いまま、月日は流れて行く。
岳人はちょこちょこ、あたしの住むマンションに来てくれて、
食事を作ってくれたりする。
哲は岳人が居ない日に家に来て、あたしの体調を気遣ってくれた。
眠たくなることも多いいし、食欲もないあたしの様子に、
さすがの哲も気付いたようだ。
「……咲良、ひょっとして妊娠してる?」
……さすがに何も言わない訳にはいかない。
そう思って、覚悟して頷いた。
「……うん、そうなの……もう少ししたら、仕事は辞めるつもりだから」
あたしの言葉に、哲が真剣な顔をして、あたしの両手を掴んだ。
「最近体調も悪そうだし、おかしいと思ってたんだ。……仕事やめたら、どうなるの?……あいつと結婚でもするの!?」
責めるような激しい口調に、胸が痛む、あたしは俯いて首を何度も振る。
「それは……ないよ、だって、赤ちゃんは……」
哲があたしの手を掴む力がこもる。
「俺の子供だよね?絶対、俺の子供だよ!……だったら……!」
「……ごめん、哲……、あたしは……、哲とはもう、一緒にいられない、だからって岳人とも、一緒にはならない……」
「なにを言ってるの?……咲良、だって、俺の子供なんだよね?父親として自分の子供と、一緒にいたいと思うのは、当たり前だよね?一人で子供は出来ないんだから」
「……そんなこと分かってるけど、ごめん、あたしは……一人で子供を育てたいの……」
哲の顔を見て話が出来ない。
上手く話が出来ない。
自分がおかしいことを言ってると、分かっているのに、
その考えを曲げることは出来ない。
哲の顔色がさっと影る。
あたしから目を反らし、歯を食い縛って、何かを堪えるような顔をして、
再び鋭く見据えられた。
心の奥にまで、踏み込む眼差しに、ずきんと胸がざわつく。
「片親で育った子供は、可愛いそうなんだよ?……回りからは同情され、バカにされて、それでもへらへらして、平気なフリをして、親を庇う為に頑張って、平気だと自分に言い聞かせても、どこかが欠けた人間になってしまう。
咲良だってそうだよね?
俺と同じだった筈だ。
そんな子供にしない為に、君は母親として、妥協してでも、俺と一緒になるべきなんだよ」