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え?元アイドルのお従兄ちゃんがわたしのクリフェラ係ですか!?

第8章 信じる気持ち

 わたしは眠れないままに朝を迎えた。

(夕謡《ゆうた》と顔、合わせづらいな……)

 だけど、そういうわけにもいかない。重い体を叱咤し、わたしは朝の支度を開始した。



 ダイニングに足を踏み入れたわたしが目にしたのは、伯母さまと夢芽《ゆめ》ちゃんの言い争いだった。

「お母さま、ひどいわ! わたしは真《しん》と清《せい》以外のクリフェラ係だなんて、ぜったいに嫌だって言っておいたのに!」

 いつも温和な夢芽ちゃんが、肩をいからせ声を荒げている。

「夢芽。あなたは九重《くしげ》家の次期当主なのよ。もっと色んな人と経験を積まなければならないわ。それに、結婚したらそうもいかなくなるでしょう。のびのびと楽しめるのは、今のうちなのよ」
「知らない人からのクリフェラ奉仕だなんて、なんにも楽しくないわ!」
「知らない仲ではないでしょう。四年前パーティーでお会いしたことがある筈よ。それに、彼はあなたの伴侶候補でもあるのだから」
「そんなの知らないわ! わたしの専属クリフェラ係は、真と清のふたりだけなんだから……!」

 そこで、ふたりはわたしの存在に気づいたようだった。
 夢芽ちゃんがふわふわの髪を揺らして駆けてきて、わたしに抱きついた。

「詩菜《しいな》お姉さま……!」
「夢芽ちゃん」
「聞いていたでしょう、お姉さま。お母さまったらひどいんだから」
「夢芽!」

 伯母さまの声が怒気をはらむ。夢芽ちゃんはびくっとしたが、わたしに抱きつく腕にぎゅっと力を込めて、言った。

「ね、詩菜お姉さま。お姉さまだって、夕謡お兄さま以外の人からクリフェラを受けるなんて嫌でしょう!?」
「……っ」
「それなのに、お母さまったら……っ!」
「夢芽、いい加減にしなさい」

 伯母さまが声を低くして言う。そこへ、夕謡がやってきた。
 夢芽ちゃんは今度は夕謡の元へ駆けてゆき、訴えを繰り返した。

「夕謡、あなたからも何か言ってあげて頂戴」

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