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『untitled』

第5章 赤いシクラメン

「いいじゃない!この顔。視聴率取れるでしょ!」

目の前にあるのは、うちの事務所の人気俳優の次のドラマのポスターだ。

「はい。本人も気合いが入ってますので」

恋人にしたい俳優ランキング。
結婚したい芸能人ランキング。

世の男性が羨む、数々のランキングで1位を総取りしていて今、もっとも、視聴率の取れる俳優。

それが、松本潤だ。


「ただ、相手の女優…気を付けてよ?」

うちの社長はその松本に熱を入れている。

俺はその松本潤のマネージャーをしている。

いつか、彼に大河ドラマをやらせたい、そして、日本を代表する俳優になってほしいとデビューした日から俺は彼のために仕事をしているんだ。

「わかっています」

この、ポスターを撮るときだって…




カメラマンが二人に構図を説明している。
「キスする寸前にしたいんです。目を閉じてもらって…手は顎にかけてもらって…」

真っ直ぐにカメラマンの話を聞いている。

邪な気持ちなんてこれっぽっちもない、と顔が訴えている。

そう。
これは仕事。

わかっている。
仕事で、演技で、女優とキスをする。


にしても…
本当に惚れ惚れする綺麗な顔だ。
相手の女優はカメラマンの話なんて聞いてない。
松本の顔ばかり見ている。

ちゃんと、仕事しろよ…

顎に指をかけて、頭を傾け、二人の距離が近づく。

絵になる二人だ。
世の中が憧れる二人だ。

「はい!テスト終わりにします。10分後本番にします!」

カメラマンたちが労いの言葉を松本にかけている。

談笑しながらこちらに、歩いてくる。

「ね、控え室戻っていい?」

「忘れ物ですか?」

「ん?そう。忘れ物」

控え室の鍵を渡そうと顔を見たら松本の口が
“ショウ” と動いた。

「今、開けます」

松本の前を歩く。
背中に感じる、熱い視線。

鍵を差し込んで回す。
勢いよく開けたら背中をトンっと押され、開けたはずのドアに背中を押し付けられた。

「翔、怖い顔してる」

「現場で名前で呼ぶなよ」

「だって、恋人だもん。いいじゃん!」

「早く、戻ろっ…んっ…」

潤の唇に、俺の唇は塞がれた。

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