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『ま゜』

第9章 脱出

 焼き上がりを確認し、オーブンから生地の入ったボウルを、水戸さんは素手で取り出す。

 フワッとチョコレートの甘い香りが、室内に広がる。

 ハンカチを水で湿らせ、それを使って冷めた金属の箱を拭き、その上にボウルをひっくり返す。

 出来上がったのは、ドーム型のチョコレートケーキだ。

「へぇ~、水戸さんやるぅ~♪」

 メカ水戸さんの収納ナイフで、細かく切り分け、『メシアガレ』の声で、振る舞われた。

 だが、すでに子供達は、メカ水戸さんが持ってきた満月ポンで、腹を満たしていた。

『あ`ほ*(なんでぇ?)』

“1つ、いただいていいか……”

 ゲームの神が甘い香りに引き寄せられ、身を低くして覗きこむ。

『ドウゾ』とメカ水戸さんが、差し出す。

 ゲームの神は1つ手に取り、口に運んでみる。







 苦しみだした。

「えええーーっ!!! 体質が犬並みぃーーっ!!!」

 だが、ゲームの神の口から出た言葉が、“うますぎて苦しい”だった。

 ゲームの神は物を食わないため、初めて口にするチョコレートケーキで、味というものを知った。

 そして、美味いという一言を初めて口に出した。

“これが、美味いというものか……これが、食べるということなのか……この子達に、美味いというものを与えられず、申し訳ないことをした……”  

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