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『ま゜』

第9章 脱出

「なぜ、子供達をここに拐って来たのか……理由を言いなさい」

 音子が、自分の満月ポンをちらつかせながら、聞いた。

 ゲームの神は、項垂れながら言った。

“自分が寂しいからだとか、誘拐して悪さをしようとは考えてない”

「じゃあ、なんなの?」

“私の後継者だ”

「後継者?」

“私はその昔、ブロック崩しからテレビゲームにハマった40代の主婦だった。ある日、好きすぎて、毎日、朝から晩まで、時間が許す限りゲームセンターに入り浸り、お金をつぎ込む毎日だった。やがて、夫には逃げられ、子供からも見捨てられ、それでもやめることが出来なかった”

 当時、人間だった45歳のゲームの神「仁天道波美子(にてんどうはみこ)」は、生活費や子供の学費をも使い込み、借金をしてまでも、テレビゲームにハマった。

 ブロック崩しからスペースインベーダーなど、ゲームセンターにあったゲーム機で毎日遊びたおした。

 あげくには、飲食をも忘れ、トイレまでも数日に1回にまで落ち、ゲームセンターの経営者からは出入り禁止を言い渡されたこともあった。

 止められないゲームの神は、駄菓子屋の前に置いてある10円のゲーム機で遊ぶようになった。

 だが、ここも他の子供達が遊べないとクレームがつき、ついには、百貨店のおもちゃ売り場にある、家庭用ゲーム機の店頭デモプレイ用で遊ぶ始末。

 行き場を失ったゲームの神は、転々とゲーム機のある店を渡り歩いたが、手持ちの金が10円もなく口にしたものは、水のみだったため、やがて命尽きる日を迎えてしまった。

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