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堕ちる

第1章 1

手のひらに、ブラジャーの生地と、その向こうにある胸の感触が伝わる。

「長谷川に触ってもらえて、すごく嬉しい」

再び耳元で囁かれる。

僕は頭がくらくらとし、ただ、なんとか踏ん張った。

「江藤さん。どうしてこんなこと……」

江藤さんが取っている行動、発している言葉、それらの意味を考えると、まるで僕のことを好きだと言っているようで──

しかし、そんなはずはなかった。

「どうしてって、長谷川のことが好きだからに決まってんでしょ」

そんなはずがなかったことを、江藤さんはあっさりと口にした。

「でも、僕たち、これまでほとんど話したこともないし……」

「好きだから、恥ずかしくて話せなかったの。そういう女の子の気持ち、わかんない?」

わからなくはない。

ただ、あの江藤さんが『好きだから恥ずかしい』『恥ずかしくて話せない』などと言うとは、考えもしなかった。

「お願い長谷川。無理に付き合ってなんて言わないから、せめて、一度だけ思い出をちょうだい」

思い出とは、どういう思い出か──

一瞬考えたが、それ以上考え続ける時間を江藤さんは与えてくれなかった。

突然、唇を唇で塞いでくる。

キス。

僕のファーストキス。

それが、江藤さんに奪われた。

更に、何かがもぞもぞと動いたかと思うと、僕の唇を割って、口の中に射し込まれてくる。

その何かは僕の口の中を這い回り、僕の舌に絡みついた。

表現しようのない快感に襲われ、頭の中が蕩けそうになってしまった。

ふと、唇が解放された。

江藤さんの顔が少しだけ遠のく。

僕は、いつの間にか床に押し倒されており、その上に江藤さんが覆い被さっているという格好になっていた。

「嬉しい。長谷川と、キスもできた」

江藤さんが感激したように言う。

潤んだ瞳から、涙がぽろぽろとこぼれ、僕の口のなかに流れ込んだ。

僕は、理性をぎりぎりのところで繋ぎ止めていた最後の糸を、決して切りはしなかった。

切りはしないが、しかし、欲求に従って体を動かすことを止めはしなかった。

中途半端に投げ出されていた腕を動かし、手のひらを江藤さんのお尻に被せる。

それから撫でるように動かしてみた。

「いいよ。長谷川の好きなようにして」

江藤さんが言い、再び唇を塞いでくる。

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