ほんとのうた(仮題)
第1章 孤独(ひとり)と逃避(ひとり)
『彼女はライブの最期で観客の中に飛び込むと、そのまま行方不明となり――』
ま、まさか……?
『慌てた事務所関係者が全力で捜索するも、未だ発見には至っていないということです』
冗談……だよな。
『それでは改めて、こちらで彼女のプロフィールを確認いたしましょう』
「ああっ!」
大写しになった宣材写真を目にして、俺は思わず大声を上げた。
【天野ふらの(21)・歌手】
「……」
一転、俺は絶句。
それに反するように、ベッドの上からモゾモゾと起き出し――
「うーん……なんか、うるさいよ」
女は眠い目を擦ると、そんな風に呑気に言うのだった。
「オイ、お前……」
「ああ、オジサンか……おはよ」
「挨拶はいい! ちょっと、コレを見ろ!」
「なぁに、もう…………あ!」
そこでようやく、女はなにかを察した様子である。
「やだなぁ……もう、騒ぎになってるし」
じっとその反応を窺っていた俺は、念を押すようにこう訊ねた。
「じゃあ、つまりコレは……?」
そして、女は俺を見上げ屈託なく笑って、こう言うのである。
「うん。私のことだよ」
どうやら想像を超える面倒事に、俺は巻き込まれてしまったみたいだ。
【第二章へ続く】